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内閣府の「男女共同参画白書
令和4年版」によると、日本の共働き世帯は増加傾向で、夫婦のいる世帯全体の約7割にまで達したといわれています。そのような状況のなか、一戸建てマイホームを新築する際に「家事楽間取り」を取り入れるケースが増えているそうです。共働き夫婦にとって、慌ただしい朝や疲れた仕事帰りの家事は負担になりやすいもの。
そこで、女性一級建築士のしかま のりこさんに家事が楽になる新築時の工夫を伺いました。洗濯の工程がグッと楽になる家事楽間取りや家事動線のアドバイス、新築時の家事楽アイデアなどもご紹介します。
COLLINO一級建築士事務所代表のしかま のりこと申します。これまで多くの住宅の設計に携わり、さまざまなご家庭の家に関する要望や悩みを伺ってきました。家事が楽になる間取りや動線は、忙しい共働き家庭にとって家事の負担を減らす強い味方です。今回は家事楽間取りをつくるうえで押さえておきたいポイントを解説します。
共働き家庭の場合、朝に洗濯しても休日以外は日中に洗濯物を取り込むことができません。天候が変わりやすい梅雨や冬場はもちろん、防犯面を考慮しても夕方まで洗濯物を干しっぱなしにしておきたくはないものです。そうなると当然、部屋干しが多くなります。洗濯を少しでも楽にしたいなら、洗面脱衣室のスペースで部屋干しできるようにするのがおすすめ。洗面脱衣室は一般的に換気扇をつけるケースが多いので、湿気がたまりにくく、効率的に洗濯物を乾かすことができます。
理想的なのは洗面室を2~3畳+脱衣室を3畳確保し、扉をつけて区切る間取りです。脱衣室をユーティリティ(家事室)にして、部屋干しスペースとして活用しましょう。家全体の坪数が少なくてスペースを割けない場合は、洗面室と脱衣室を分けずにユーティリティにするのがよいですね。その際、最低でも3~4畳ほどの広さがあれば、部屋干しがしやすくなります。
さらにユーティリティにカウンターつきの造り付け収納をつくって、洗濯物をたたんだり、アイロンをかけたりできるようにすると、使い勝手がよくなります。ただし、造り付け収納をつくるとコストが高くなってしまうので、収納を安価におさえるなら市販のチェストなどを活用するとよいでしょう。天板部分が作業台になるので、便利に使えるうえにスペースを有効活用できます。
また、洗面脱衣室におすすめの床材は、水に強くて施工性が高い「クッションフロア」です。ビニル製で水が染み込みにくいため、洗濯機の水漏れが起きても被害を最小限におさえてくれます。木目調や大理石調など、色や柄の種類が多いのでインテリア性は抜群ですし、掃除もしやすいので、ぜひクッションフロアを検討してみてください。
洗面室と脱衣室に十分なスペースを確保できず、リビングに部屋干しするご家庭もあると思います。一時期SNSなどの影響もあり、室内干しユニットをリビングに設置するのが流行りました。しかし、日常的にリビングで部屋干しすると生活感が出すぎる、家にお客さんを招きにくくなるなどの理由から後悔の声も多く聞かれます。
もしリビングで部屋干しするなら、新築時に「湿気を排出するための換気設備」をリビングに導入してください。今の住宅は24時間換気システムが義務づけられているとはいえ、それは最低限の換気なので室内干しの湿気は排出しきれません。換気設備のなかでも、室内の温度を一定に保ちながら湿度を調節できるものがとくにおすすめ。ジメジメを防止し、部屋干しの嫌な臭いもおさえることができます。
洗濯の負担を減らすうえで重要なのが家事動線の工夫です。洗濯機を置く洗面脱衣室(ユーティリティ)、乾いた洗濯物をハンガーに干したまま収納できるファミリークローゼット、そしてキッチン。この3か所を家事動線で結ぶような間取りにすると、家事の負担を大きく減らすことができます。
洗面脱衣室で部屋干しした洗濯物をそのままファミリークローゼットに収納すればたたむ手間が省けますし、キッチンとの動線がつながっていれば洗濯と同時進行で調理や洗い物をすることも可能です。朝の忙しい時間や帰宅後の疲れた状態での家事を少しでも楽にするため、家事動線をつなげて少しでもゆとりが持てるといいですね。
ファミリークローゼットの広さは、家族構成によって変わります。ご家族で用途を考えながら、設計士とよく相談して計画しましょう。4人家族の場合は少なくとも2畳、できれば3畳ほどの広さにすると使い勝手がよくなります。さらにウォークスルーにすると、家事動線上をスムーズに移動できて便利ですよ。また、ファミリークローゼットは一般的な36坪の住まいはもちろん、狭い間取りでも工夫次第で設置できます。
ファミリークローゼットは、普段使いの洋服や頻繁に洗濯する体操着やスポーツウエア、タオルやハンカチなど日頃からよく使うものを収納する場所にします。ただし、広めのファミリークローゼットをつくれたとしても、家族全員の衣類をすべて入れるのは控えましょう。管理が大変になって、どこに何があるのかわかりにくくなるからです。今の季節で使わないものや、きちんと管理しておきたいお気に入りの洋服などは、個人の部屋の収納に片づけてください。
ファミリークローゼット内にハンガーパイプやラックなどの造り付け収納をつくると、どうしても費用がかさみます。価格をおさえるなら、棚やラックをカスタムできる市販の「システム収納」がおすすめです。ファミリークローゼットの広さや用途にあわせて選べば、比較的安価に利便性の高い収納が実現できます。システム収納をファミリークローゼット内に設置する際は、新築時に現場の大工さんに取りつけてもらいましょう。自分で家具を設置すると、どうしても転倒防止の対策が甘くなってしまいます。プロの施工でしっかりと固定してもらえば、地震が起きても転倒を防げるでしょう。あらかじめハウスメーカーに伝えておけば、現場で対応してくれますよ。
家事楽な間取りには扉を少なくすることも重要です。家事動線上に扉がなければ、両手が塞がった状態でも移動できるので、ストレスが軽減されます。とくに洗濯物を抱えて行き来するファミリークローゼットや、買ってきた食材を保管するパントリーへの動線には扉をつけないのがおすすめです。ただし、扉を減らしすぎるのは、光熱費の観点でNG。リビングやキッチンなどいつもいる空間と、廊下や洗面室など一時的な空間の境目には扉をつけて、効率よく冷暖房が効くように配慮しましょう。
造り付け収納の扉も、家事を楽にするために考えるべきポイントです。扉がない収納にすると、中身がわかりやすくて出し入れがしやすくなりますし、通気がよくなるためカビが生えにくいといったメリットもあります。ただし、ほこりがたまりやすくなってしまうので、こまめな掃除が難しい場合は扉をつけたほうがよいでしょう。造り付け収納の扉は部屋に十分なスペースがある場合は開き戸にすると見た目がすっきりしますが、スペースに余裕がなければ引き戸を検討してください。
また、リビングなどインテリアを重視する空間では、収納の80%を扉のある「隠す収納」にして、残り20%を扉のない「オープン収納」にすると、おしゃれで片づけやすい部屋にすることができます。一方で、洗面脱衣室(ユーティリティ)やパントリー、土間収納などの家事楽を優先したい部屋は、持ち物の80%を扉のないオープン収納にし、20%程度を扉のある隠す収納にするなど、使い勝手を考慮して収納タイプの割合を工夫しましょう。
新築時におすすめしたいのが、人感センサー付きのダウンライト。玄関や廊下、トイレや洗面室などにつけておくと非常に便利です。電気のスイッチを押す必要がなくなるので、両手が塞がっている状態でも煩わしくないですし、うっかり電気を消し忘れることも防げます。忙しい共働き家庭では夜遅い帰宅も多くなりがちですが、家に帰って自動的に電気がついてくれると想像以上に暮らしやすいものです。人感センサー付きのライトは、あとからつけることも可能ですが、新築時に導入しておけば設置スペースに悩むこともありません。さらに連動式センサーのダウンライトにしておけば、自分が通る場所の照明を自動的にオンオフしてくれるので、とても快適ですよ。ぜひ、設計の段階でダウンライトの導入を検討してみてください。
家事の負担を減らすために、新築時の造り付け収納は天井ぴったりの高さにしましょう。天井との隙間がなければ、ほこりがたまる場所が少なくなるので、掃除の手間を軽減することができます。
ただし、造り付け収納は“どこに何をしまうのか”をよく考えてオーダーすることが大切です。「収納量がたくさんあれば大丈夫」と思って無計画につくってしまった結果、高さや奥行きが合わずに入れたいものが入らなかったり、変なスペースが余ってしまったりして後悔する方も少なくありません。
今あるものをしっかりと把握し、新居に引っ越す際に捨てるもの・新しく買うものについても考え、造り付け収納の設置場所を計画しましょう。家族が共有で使うものはファミリークローゼットやリビング収納に入れる、個人の趣味のアイテムや大切なものは個室の収納にしまうなど、収納場所をあらかじめ区別しておくことも重要です。
また、造り付け収納のもうひとつのポイントは“ずっと使い続けるもの”をイメージして設置することです。一時的に使うもののために造り付け収納をつくってしまうと、ライフステージの変化に伴い、無駄な空間になりかねません。代表例は子どもが小さいときに必要な収納ですね。子ども用のハンガーラックやおもちゃ収納はいずれ不要になるので、造り付け収納ではなく、あと置きの収納家具を選びましょう。
家事が楽になる間取りや設備、収納の工夫についてお話しました。効率的に部屋干しするには、洗面脱衣室をユーティリティとして活用し、ウォークスルータイプのファミリークローゼットをできるだけ広めにつくりましょう。さらにキッチンも含めた3か所を結ぶような間取りにして家事動線を縮めれば、家事の負担をグッと減らすことができます。収納の設置場所や扉の有無なども、普段の生活や先々のことをよく考えたうえで計画することで、無駄なく暮らしやすい住まいが実現するはずです。
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