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2025.8.27 更新
ビジネス
サステナブルファイナンスとは?注目される背景や主な種類・手法、相談先を徹底解説
持続可能な社会の実現に向けて、「サステナブルファイナンス」という単語を見聞きしたことはあるものの、内容がわからない方もいるのではないでしょうか。 サステナブルファイナンスとは、気候変動問題の解決に向けた取り組み(脱炭素)や社会課題の解決などを支援するためのファイナンス手法です。近年、さまざまな企業が実施しているため、意味を正しく理解しましょう。 本記事では、サステナブルファイナンスに関して徹底解説します。サステナブルファイナンスが注目・推進される背景や、主な類型・具体的手法を紹介するため、ぜひ参考にしてください。
サステナブルとは?
「サステナブル(sustainable)」とは、「sustain(持続させる・維持する)」と「able(~できる)」を組み合わせた英単語です。日本語では、「持続可能な」と訳されます。 近年、気候変動や環境破壊、社会的不平等といった地球規模の課題が深刻化する中で、これらの問題に長期的に対処できる仕組みや取り組みが求められています。こうした時代背景から、「環境・社会・ガバナンスのバランスを保ちながら、現在と将来の世代がともに豊かに暮らしていける社会」を目指す考え方として、「サステナブル(sustainable)」という概念が広く浸透するようになりました。 実際に、国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標=Sustainable Development Goals(SDGs)」や、同年の国際会議で採択された気候変動対策を促す「パリ協定」などは、いずれも持続可能な社会の構築を目的とした代表的な取組みです。
サステナブルファイナンスとは?
「サステナブルファイナンス」には、さまざまな定義がありますが、ISO(国際標準化機構)のTC 322(サステナブルファイナンス技術委員会)では、「環境や社会、企業の運営方針(ガバナンス)といったサステナビリティ要素を、経済活動への資金提供に統合すること」と定義しています。 また、「環境・社会・ガバナンスを考慮した持続可能な経済活動に対して実施される長期的な金融活動(投資・融資など)」と説明されることもあります。 以下は、サステナブルファイナンスの仕組みを表した図です。
金融機関や投資家は、環境保護や社会課題の解決、ガバナンス強化に取り組む企業やプロジェクトに対して、投資や融資を通じて資金を提供します。 企業は、その資金をもとに設備投資や人材確保などを行い、持続可能な社会の実現に向けた取組みを具体化していきます。 そして、これらの事業がサステナビリティに適合しているかどうか、第三者機関が介入し、審査・評価を行います。 サステナブルファイナンスは、経済活動によるポジティブ・ネガティブ両面の外部性を、金融資本市場が適正に織り込むことを可能にする仕組みです。環境や社会問題に配慮した資金の流れを通じて、経済の持続的な成長基盤の保持・強化が期待されています。
サステナブルファイナンスが注目・推進される背景
近年、サステナブルファイナンスが注目・推進される大きな背景には、気候変動(地球温暖化)問題があります。温暖化を食い止めるためには「脱炭素」への取組みが重要ですが、設備投資・技術開発には多額の資金が必要です。そのため、金融機関は資金を供給する立場として重要な役割を担っています。 サステナブルファイナンスの対象は、気候変動問題の解決に向けた取組みだけではありません。経済的格差・人口減少などの問題に対処するためにも、資金やアドバイスの提供が不可欠であり、日本政府もサステナブルファイナンスを推進しています。
サステナブルファイナンスとESG課題の関係性
サステナブルファイナンスは、「ESG」に関連した諸課題の解決に役立つ仕組みです。 ESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」を意味する用語です。各構成要素としては、主に以下のものが挙げられます。
これらの要素に配慮した経営・事業活動や投資活動を促すために、日本政府もサステナブルファイナンスの推進に取り組んでいます。 企業がサステナブルファイナンスを活用することで、持続可能性に関する戦略立案・実行やリスク管理・ガバナンス体制の整備などが行われ、その結果、中長期的な評価の向上や企業価値の増大が期待されます。 なお、企業の評価を上げるために「環境に配慮している」と見せかける「グリーンウォッシュ」と呼ばれる行為が懸念されています。投資家の誤解を招かないように、誠実な対応を心がけましょう。
サステナブルファイナンスの主な種類・手法
サステナブルファイナンスは、さまざまな資金提供方法・金融サービスを包含する概念です。 以下では、主な類型と各類型の具体的な手法を紹介します。各手法の特徴を正しく把握したうえで、自社に適した手法を選択しましょう。
①サステナブル投資(ESG投資)
「サステナブル投資(ESG投資)」とは、非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンスの3要素)を考慮した投資で、以下に示す手法があります。
①-1:ESGインテグレーション ①-2:ネガティブ・スクリーニング ①-3:規範スクリーニング ①-4:ポジティブ・スクリーニング ①-5:サステナビリティ・テーマ型投資 ①-6:インパクト投資 ①-7:エンゲージメント・議決権行使
各手法について詳しく説明します。
①-1:ESGインテグレーション
「ESGインテグレーション」とは、ESG評価・ESG指数などを総合的に勘案して、投資先や割合を決定する手法です。 ESG評価・指数とは、企業のESG課題に対する取組みを考慮した評価手法・指数です。 既存の投資意思決定プロセスの枠組みや投資目的を変更せずに導入できるため、近年、日本で急速に広まっています。
①-2:ネガティブ・スクリーニング
「ネガティブ・スクリーニング」とは、一定の基準を踏まえて特定セクター・企業などの発行体を投資対象から除外する手法です。 除外基準としては、「武器」や「タバコ」などの製品カテゴリーが用いられる場合があります。また、「動物実験」「人権侵害」「汚職」など、企業活動の内容を考慮するケースも見受けられます。
①-3:規範スクリーニング
「規範スクリーニング」とは、国際的な規範・ルールにもとづいてスクリーニングを実施し、特定セクター・企業などの発行体を投資先から除外する手法です。 主に、国際連合・ILO・OECDなどが公表している規範・ルールが用いられます。
①-4:ポジティブ・スクリーニング
「ポジティブ・スクリーニング」とは、同業他社などと比べてESG視点でパフォーマンスに優れる企業・セクター・プロジェクトに投資する手法です。 例えば、各業種内の企業に対してESG基準でスコアを付与し、スコアが高い企業の銘柄だけでポートフォリオを構築する方法があります。
①-5:サステナビリティ・テーマ型投資
「サステナビリティ・テーマ型投資」とは、ESG課題の解決に貢献する具体的なテーマ・資産に特化した投資です。 テーマの例としては、「持続可能な農業」「低炭素ポートフォリオ」「ジェンダーの平等」「ダイバーシティ」などが挙げられます。
①-6:インパクト投資
「インパクト投資」とは、金銭的リターンの創出と並行して、環境・社会の改善作用(インパクト)を促すことを目指す投資です。 インパクト投資では、投資するべきかどうかを判断する際に、ESG関連活動やCSRに関する実績を考慮します。
①-7:エンゲージメント・議決権行使
「エンゲージメント・議決権行使」とは、投資家が株主としての立場から、投資先企業と対話を行い、ESG課題に関する経営改善や情報開示の強化などを促す手法です。 また、株主総会での議決権行使により、企業に対してESGに配慮した経営の働きかけを行うことも含まれます。 この手法は、投資先企業の中長期的価値向上を目指す「スチュワードシップ責任」の一環として重視されており、受動的な投資戦略との相性も良いため、多くの投資家が導入を進めています。
②サステナブル債(ESG債/SDGs債)
「サステナブル債(ESG債/SDGs債)」とは、環境・社会・ガバナンスに良い影響を与えることを目的として発行される債券です。 なお、ICMA(国際資本市場協会)などが定める各種原則・ガイドラインに基づいて認証され、適切に情報が開示されるものを意味します。
サステナブル債は、資金の使途によって、以下に示す五つのタイプに分類できます。
②-1:グリーンボンド ②-2:ソーシャルボンド ②-3:サステナビリティボンド ②-4:トランジションボンド ②-5:サステナビリティ・リンク・ボンド
それぞれ詳しく説明します。
②-1:グリーンボンド
「グリーンボンド」とは、環境問題の解決に資する「グリーンプロジェクト」に要する資金の調達を目的として発行される債券です。サステナブル債のうち、最も発行額が大きいタイプです。 資金使途の例としては、「再生可能エネルギーの推進」「エネルギー効率改善」「汚染防止・抑制」などが挙げられます。
②-2:ソーシャルボンド
「ソーシャルボンド」とは、社会課題の解決に資する「ソーシャルプロジェクト」に要する資金の調達を目的として発行される債券です。 資金使途の例としては、手頃な価格のインフラや必要不可欠なサービスなどを提供する事業が挙げられます。
②-3:サステナビリティボンド
「サステナビリティボンド」とは、「グリーンプロジェクト」や「ソーシャルプロジェクト」に要する資金の調達を目的として発行される債券です。 調達した資金は、グリーンまたはソーシャルの性質を有する(環境問題または社会問題の解決に資する)事業で用いられます。
②-4:トランジションボンド
「トランジションボンド」とは、「脱炭素社会への移行」に関連する事業に要する資金の調達を目的として発行される債券です。 調達した資金は、二酸化炭素排出量が多い企業が脱炭素社会への移行を目指して実施する事業(エネルギー・輸送・製造などの分野)で用いられます。
②-5:サステナビリティ・リンク・ボンド
「サステナビリティ・リンク・ボンド」とは、発行体の定めるサステナビリティ目標の達成度合いに応じて金利条件が変動する債券です。 調達した資金の使途は、サステナビリティ目標の達成に資する事業全般です。
③サステナブル融資
「サステナブル融資(ローン)」は、環境・社会関連ポリシー(方針)の策定など、融資の際にサステナビリティを考慮するファイナンス手法です。 2018年以降に日本で広まりつつある手法で、大手金融機関が環境・社会に関するポリシーやセクター別ポリシー策定を進めています。運用資産クラス別サステナブル投資残高は、現時点では株式・債券が多くを占める状況です。それらと比較するとサステナブル融資(ローン)の占める割合は僅少ですが、今後の拡大が期待されます。
サステナブル融資も、サステナブル債と同様に、資金の使途によって以下に示す五つのタイプに分類できます。
③-1:グリーンローン ③-2:ソーシャルローン ③-3:サステナビリティローン ③-4:トランジションローン ③-5:サステナビリティ・リンク・ローン ③-6:ポジティブインパクトファイナンス
それぞれ詳しく説明します。
③-1:グリーンローン
「グリーンローン」とは、気候変動や公害防止など、環境に関連するプロジェクト(グリーンプロジェクト)に要する資金を調達するためのローンです。 資金使途の例としては、「脱炭素の促進につながる再生可能エネルギーの創出」「地域の環境保全」「地球環境の改善」などが挙げられます。
③-2:ソーシャルローン
「ソーシャルローン」とは、社会的課題の解決に資するプロジェクト(ソーシャルプロジェクト)に要する資金を調達するためのローンです。 調達した資金は、貧困・福祉・教育・衛生などの社会的な課題を解決するために用いられます。
③-3:サステナビリティローン
「サステナビリティローン」とは、「グリーンプロジェクト」および「ソーシャルプロジェクト」に要する資金を調達するためのローンです。 調達した資金は、グリーンまたはソーシャルの性質を有する(環境問題または社会問題の解決に資する)事業で用いられます。
③-4:トランジションローン
「トランジションローン」とは、脱炭素社会への「移行」に関連する事業に要する資金を調達するためのローンです。 調達した資金は、二酸化炭素排出量が多い企業が脱炭素社会への移行を目指して実施する事業(エネルギー・輸送・製造などの分野)で用いられます。
③-5:サステナビリティ・リンク・ローン
「サステナビリティ・リンク・ローン」とは、事前に定められたSPTsを借り手が達成することを奨励するローンです。SPTsとは、企業のサステナビリティ戦略やESG(環境・社会・ガバナンス)目標と連動した定量的な目標で、「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット」の略です。 「エネルギー効率」「温室効果ガス排出量」など、様々なカテゴリーでSPTsが設定されます。 資金の使途は、特定のプロジェクトに限定されません。なお、借り入れ側の成果と金利などの借り入れ条件が連動する特徴があります。
③-6:ポジティブインパクトファイナンス
「ポジティブインパクトファイナンス」とは、企業が投資や融資を通じて、環境や社会にプラスの影響(ポジティブインパクト)を与えることを目的とした融資制度です。 経済・社会・環境といった分野のいずれかにおいて明確な好影響をもたらすと同時に、悪影響となり得る要素についても適切に把握・管理し、必要に応じて是正を図ることが求められます。 なお、資金の使途は、特定のプロジェクトに限定されません。
まとめ
「サステナブルファイナンス」とは、環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮した持続可能な取組みに対して、投資・融資などを通じて資金を供給する手法です。ESG投資・サステナブル債・サステナブル融資など、さまざまな種類があり、自社の戦略や課題に応じた選択が求められます。 中長期的な企業価値の向上や社会的信頼の獲得にも繋がることから、導入を検討する企業も急増しています。なお、サステナブルファイナンスの検討が初めての場合は、金融機関への相談をおすすめします。 本記事で紹介した内容をもとに金融機関へ相談し、自社に合ったサステナブルファイナンスを活用しましょう。
サステナブルファイナンスのご相談は千葉銀行へ!
千葉銀行では、「グリーンローン」「ソーシャルローン」「サステナビリティローン」「トランジションローン」「ポジティブインパクトファイナンス」などのサステナブルファイナンスを実施しております。
千葉銀行とのお取引がある法人さまが対象で、具体的には以下の商品の取り扱いがございます。
・ ちばぎんスマートローン ・ ちばぎんリーダーズローンNEXT(目標連動型) ・ ちばぎんリーダーズローンNEXT(環境設備型) ・ ちばぎんポジティブインパクトファイナンス ・ ちばぎんSDGsフレンズローン ・ ちばぎんSDGs私募債
上記のうち、ちばぎんスマートローンは、「興味・関心はあるものの、どうするべきかわからない」と悩んでいる法人さま向けのメニューです。 また、ちばぎんリーダーズローンNEXTは、サステナビリティ経営を実践する法人さまが、事業規模・経営実態に合わせて有効な目標を設定する融資制度です。 ちばぎんポジティブインパクトファイナンスは、お客さまの事業活動が環境・社会・経済に与えるインパクト(影響)を、ちばぎんグループが包括的に分析・評価し、SDGsの達成や、持続可能な社会の実現に貢献することを目的とした融資制度です。 サステナブルファイナンスを検討中の法人さまは、ぜひお気軽に千葉銀行へご相談ください(※)。
※ご融資にあたっては所定の審査があり、審査結果によってはご希望に添えない場合もございます。
寄稿者プロフィール
安田 亮(やすだ りょう)
公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。そのほか、M&A・法人ファイナンスなど、グループ経営に関わる幅広い実務も行う。