2025.8.27 更新
ちばぎん
AIを「自らつくる」時代へ─若手行員の挑戦が、ちばぎんグループの未来を切り拓く
「ここまでできるとは!」 そんな声が頭取から上がったのは、ある行内プレゼンテーションの場でした。披露されたのは、若手行員が手がけた「営業研修で使えるロールプレイング生成AI」のプロトタイプ。その完成度の高さに、他の経営陣たちにも驚きが広がりました。 開発に携わったのは、Google Cloud の実践型AI研修「Advanced Solutions Lab(以下、ASL)」に参加したちばぎんグループの若手行員たちです。AIの理論と実装を4週間にわたり集中的に学び、実際の銀行業務を題材にAIソリューションの試作にも挑戦しました。 本記事では、その研修に参加した行員4名とグループ会社の社員1名のインタビューを通じて、ちばぎんグループがAI活用に向けて踏み出した一歩を追います。
もうAIは対岸のものではない。ちばぎんグループが踏み出した第一歩
(提供:Google Cloud)
金融業界ではこれまでAI活用に慎重な姿勢でした。機密性の高い情報を取り扱う業界であることや、AIの仕組みがよく分からないことへの不安感が、その背景にあったと言えます。ちばぎんグループにおいても同様で、テキストデータやアンケートなど、さまざまなデータ資産が蓄積されているものの、「それらをどう活かせばよいのか分からない」という課題を長らく抱えてきました。 しかし、生成AIの急速な普及がこの空気を変えました。これまではどこか対岸の存在だったAIが、日々の業務にも応用可能な身近な技術へと変貌を遂げつつある今、「自分たちの手でAIを活用し、業務改革を進めていくべきではないか」という機運が高まりました。 そうした流れの中で、2024年1月にスタートしたのが、ASLへの参加です。講師はすべてGoogle Cloudの現役エンジニアたち。実務に直結する理論とスキルを短期間で身につけられる濃密なプログラムとして高い評価を得てきました。ただ、正直なところ、受講者たちがプログラムを終えて戻ってくるまでは、「ASLに参加することで何が得られるのか」について、行内でも明確なイメージは持てていませんでした。AIの開発を自分たちの手で行うという発想自体が、まだ遠い話のように感じられていたのです。
受講者たちが語る、ASLで得た気づきと学び
【AI開発の魅力を教えてくれたASLは、私にとってキャリアの転換点】(上島 朋昂)
私にとって、Google Cloudのエンジニアから直接指導を受けられるASLへの参加は、まさにキャリアの転換点となる体験でした。 プロトタイプを開発するプログラムでは、当行のオリジナルキャラクター「ひまりん」を生成AIに学習させ、多様なバリエーションを生成するという実験に取り組みました。モデルに特徴を学ばせる難しさと、それを乗り越えてAIが徐々に「ひまりん」を描けるようになっていくプロセスを体感できたことは、AI開発の創造性や面白さを実感するきっかけとなりました。 研修から戻ってきた後、私はすぐに実務への応用を模索しました。資産運用コンサルティング部から「トークスクリプトの作成」や「行員育成のロールプレイング」に関する相談を受け、ASLで得た知識をもとにAIを活用した解決策を考案しました。まずは小さなプロトタイプを作るところから始め、試行錯誤を重ねました。結果として、AIによるトークスクリプトの自動生成や、ロールプレイ相手として会話できるアプリケーションを開発するに至りました。 2024年11月にはその成果を頭取に直接報告したところ、前向きな評価とともに、「他の地方銀行へも展開できるかもしれないね」といった言葉もいただきました。AIに限った話ではありませんが、年次に関係なく、若手行員が経営層と直接対話できる風土も、千葉銀行の大きな魅力だと感じています。 もしASLに参加していなければ、私は今もデジタルマーケティングの領域に留まっていたかもしれません。AI開発の現場に立ち、実際に課題解決のプロセスを経験したことで、自分のキャリアの可能性が大きく広がったと実感しています。今後は、AIソリューションの中核を担う行内エンジニアとして、まだ誰も手をつけていない領域にも挑戦していきたいと考えています。
【学びを、組織全体の力に変えていく】(木村 嶺真)
正直、声がかかったときは期待と不安が半々でした。ただ、せっかく参加するなら、自分の業務や銀行のビジネスにどうフィードバックできるかという視点を持って臨もうと決めました。私はもともと、システム領域に関する専門的な知見があるわけではありません。そのため、エンジニアとしてのスキル向上よりも、習得した技術をいかに実務に落とし込み、組織全体で活用できるかという点に重点を置いて取り組みました。 研修では、これまで概念的にしか捉えられなかった生成AIや大規模言語モデル(LLM)の技術を、コードレベルで手を動かしながら体得することができました。理解が深まったことで、裏側の仕組みや開発プロセスの大変さも肌で実感でき、以前よりもシステム開発に対する解像度が上がったと感じています。 また、AI導入は従来の開発と異なり、いきなり完成形を目指すのではなく、まずは小さなPoC(概念実証)から始め、検証を重ねて本格導入するプロセスが主流です。こうした開発の進め方を学べたおかげで、現在取り組んでいるグループ会社のエッジテクノロジー社との協業でも、認識の齟齬がなくスムーズに業務が進められています。 今後は、こうした学びを所属するAIソリューション室の枠を超えて社内に広めていきたいと考えています。さらに、顧客データを活用したサービス創出に向けて、よりセキュアな開発基盤の整備にも注力していきたいです。
【AIを根づかせ、グループ全体の力に】(石川 誉康)
私が所属するちばぎんコンピューターサービス株式会社は、ちばぎんグループの一員として、千葉銀行や地方自治体、一般企業向けに情報サービスを提供するシステム開発会社です。 社内でAI活用への関心が高まり始めた頃、ASLの研修プログラムを知り、「社内AI活用の先駆けになろう」と参加を決めました。特に印象的だったのは、実務に即したユースケースに基づいてAIシステムのプロトタイプを開発するという実践的な内容です。 私は千葉銀行のメンバー2名とチームを組み、RAG(Retrieval-Augmented Generation)※を、ChatGPTのようなAIに組み込むことで、AIの性能を向上させるという技術的アプローチに挑戦しました。銀行では社内チャットボットの導入が進んでいますが、膨大な社内規定やマニュアルの中から必要な情報を探すのは容易ではありません。そこでRAGを使い、より適切な情報にたどり着ける仕組みを目指しました。Google Cloudのエンジニアと直接議論し、即座にフィードバックを得られる環境のおかげで、「こうすれば実装できる」というリアルな手応えを得ることができ、AI導入の現実味が一気に高まりました。 研修から戻ってきた後は、ユーザー情報を学習しないChatGPTアプリを開発しました。センシティブな情報が蓄積されるリスクを回避でき、金融機関でも安心して使える仕様を追求しました。さらに、RAGを活用した独自の検索ソリューションも完成し、2025年3月に無事リリースすることができました。 今回の研修では、千葉銀行のメンバーとともに取り組めたことも大きな収穫でした。金融機関が本気でAI人材育成に取り組む姿勢に触れ、大きな可能性を感じました。AIを組織に根づかせる動きは、ちばぎんグループ全体のDXを加速させる力になると信じています。
※RAGとは、大規模言語モデル(Large Language Models、LLM)に外部データを参照させて回答精度を高める技術。
【高精度なAIは、「整ったデータ」から生まれる】(稲村 光亮)
もともとプログラミングやAIに詳しかったわけではなく、最初は「自分にAIの開発なんてできるのか」という不安が大きかったです。ただ、当時所属していたデジタル戦略部業務改革グループでRPA(Robotic Process Automation)※を使って業務効率化を進めていた経験から、RPAだけでは限界があることも感じており、「AIと組み合わせたらもっと可能性が広がるのでは」と期待も抱いていました。
※RPAとは、ソフトウェアと利用してパソコンで行う定型的な事務作業を自動化する技術。
ASLに参加して強く感じたのは、「AIの精度はデータの質に大きく左右される」ということです。例えば、銀行には膨大な業務マニュアルがありますが、それらはもともと人間が読む前提で作られているため、図や表が混在していてAIにとっては読みづらいです。今後AI活用を本格化していくなら、初めからAIを活用することを前提とした構造的で規則正しいデータの整備が必要になると実感しました。 現在は、問い合わせ業務の効率化に取り組んでいます。過去の問い合わせと回答をデータベース化し、AIが類似した質問に対して自動で回答案を提示できるような仕組みの構築を進めているところです。その第一歩として、まずは過去の問い合わせデータの「質」を上げる作業から始めています。テンプレート化や構造化など、地道な作業が多いですが、ここを丁寧に整えることで、将来的な業務改革の基盤になると信じています。 私が目指したいと思うのは、「AIにすべてを任せる」のではなく、「人を支えるアシスタント」としてAIが現場に根づいていく未来。たとえば議事録作成のような定型的な作業はAIに任せ、その分、行員はお客さまとの対話や課題解決といった、より創造的な仕事に時間を使うようになる。そんな働き方が実現できれば理想的だと思います。 それからもう一つ、今回の研修で得た気づきがあります。それは、ユーザーの潜在的なニーズに寄り添いながら、技術と業務の橋渡しをするという姿勢の大切さです。AI導入は技術的なチャレンジであると同時に、「現場の声」に寄り添うことでもあると思うので、その両方を大事にしながら、一歩ずつ前に進んでいきたいと考えています。
【お客さまの「声」をAIで読み解く】(竹鼻 啓人)
ASLで印象に残っているのは、学びの環境の素晴らしさです。最先端の技術に触れることができただけでなく、それをトップレベルのエンジニアの方々から直接、実践的に学べたことはとても刺激的な体験でした。 実際の業務課題をもとにプロトタイプを開発するプログラムでは、深層学習を活用したテキストデータにおける感情分類モデルの構築に取り組みました。というのも、これまで営業店の担当がお客さまへのヒアリングの中で得た情報や、アンケートの記述欄にあるテキスト情報の活用は、データ利活用の中でも特に手つかずの領域で、大切なお客さまの声を活かしきれていないという思いがあったからです。具体的には、Google マップのレビューコメントなどを8種類の感情(喜び、怒り、悲しみ、不安など)に分類し、感情のバランスを可視化する検証を行いました。例えば、「嬉しい」という単語が含まれていても、同じ文中に「残念だった」という言葉があるとき、その文脈全体をどう読み取るか。そうした繊細な理解を可能にするモデルができたときは少なからず手応えを感じました。それからもう一つ、作ったプロトタイプを皆の前で発表する際に、AIの技術的な側面そのものに焦点を当てるのではなく、相手に分かりやすく伝えることの重要性に気づいたのも発見の一つでした。 ただAIモデルをつくるのではなく、「本当にAIが必要なのか」「既存の技術よりも自前で開発するべきなのか」と問いかけられた際にも、ニーズに合わせて自分の考えを伝えられるようになったと思います。 現在はAIソリューション室とマーケティング戦略グループで業務を兼務しながら、提案活動にも力を入れています。「これってAIで何とかならない?」という声が他部署から寄せられるようになったのは、大きな変化の一つです。今後は、各部門と連携し、お客さまの声に寄り添いながらサービス改善の一助となりたいと考えています。
AIソリューション室のこれから。「守り」と「攻め」のバランスを大切に
ASL1期生の活躍は、千葉銀行内に大きなインパクトをもたらしました。2024年9月にはAIソリューション室が新設。現在は、高倉室長のもと、若手中心のチームが千葉銀行におけるAIの活用を積極的に進めています。 「1期生たちも口にしていたように、AIの成果は、与えるデータの質で決まります。業務を熟知している行員がデータを扱うからこそ、価値あるアウトプットにつながる。そのことに気づけたのは組織にとって大きな収穫でした」と高倉室長は語ります。 今は、主に「行内の業務活動の高度化」について、可能性を探っているところですが、お客さま一人ひとりに最適な情報をお届けする「One to Oneマーケティング」の高度化、さらに、地方銀行としての大きな使命でもある「お客さまの業務活動の高度化」にもAIを活用し、本格的な展開を目指していきたいと考えています。 そのために重要となるのが、AIリスクガバナンスの構築と、ちばぎんグループ全般にわたるAIリテラシーの底上げです。 「せっかく便利な仕組みをつくっても、使われなければ意味がありません。守りと攻めのバランスを大切にしながら、今後もチャレンジを続けたい」と、高倉室長は強調します。
若手の挑戦が、組織を変える。AIは、すでに「現場の技術」へ
ちばぎんグループ内でもこれまでは「AIは遠い世界の話」と思われていました。しかし今、その技術は確かにグループ内の現場を動かし始めています。ASLという挑戦の場を通じて、若手行員たちは「AIは自分たちでもつくれる」「業務課題を自分たちで解決できる」という確かな手応えを得ました。そしてその波は、グループ内全体にじわじわと広がり始めています。AIを「使う」だけでなく、「つくる」時代へ。この一歩は、地方銀行の未来に大きなヒントを与えるものになるかもしれません。
※所属、役職およびインタビュー内容は取材当時のものです。