NFT(Non-Fungible Token)という言葉が、バズワードから具体的なユースケースを模索するフェーズに移行しつつある中、千葉銀行でも現在、新事業の創出を目指す行員たちがユニークな実証実験に挑んでいます。彼らが見据えるのは、NFTの地域社会への活用。果たしてNFTは、地域を活性化し、また地域のDXを後押しする新たな契機となりうるのでしょうか。実証実験を通して見えてきたのは、NFTを単なるデジタルアイテムではなく、地域の方々や企業を巻き込む新しいコミュニケーションツールとして活かす道筋でした。この記事では、行員たちが挑んだ実証実験の軌跡を辿りながら、NFTが描き出す未来の可能性を探っていきます。
北澤 卓也 株式会社千葉銀行 デジタル戦略部企画グループ
2014年入行。営業店勤務を経て、FinTech企業へのトレーニー出向を経験。帰任後は法人向けポータルサイトの企画やちばぎんアプリのプロモーションを担当。現在はデジタル戦略部企画グループで、BaaSやWeb3などデジタルを起点とした新事業創出に取り組んでいる。
ー地方銀行がなぜ今、NFTの実証実験に取り組んでいるのか、まずはきっかけから教えてください。
北澤:
この取組みの背景には、デジタル戦略部企画グループの新事業グループで始まった「Web3を新たなビジネスチャンスとして活用できないか」という議論がありました。さまざまな技術やツールを検討する中で、特に注目したのがNFT。当行が掲げる「地域に寄り添う エンゲージメントバンクグループ」というビジョンを実現する手段として、NFTが持つ特性がマッチするのではないかと考えました。
北澤:
一つは、NFTの持つトレーサビリティという特性です。これにより、NFTの保有者に対して特典や情報を直接届けることができます。この仕組みが、地域の企業や人々との関係をより長く、より深く育てる力になると考えました。もう一つは、NFTが唯一無二で複製ができないという特性です。この点が、単なるプレミア感だけでなく、保有者に限定した体験の提供を通じてファンコミュニティの形成に役立つのではないかと期待しました。こうしたNFTの特性を活かすことで、地域の活性化やコミュニティの醸成、さらには地域の課題解決や参加型のまちづくりをデジタルで支援する地域DXの推進といった分野で、新たな価値を生み出せるのではないかと考えています。
ー金融機関としてはかなり早めの参入かと思いますが、不安などはありましたか?
北澤:
未知の分野で、実は私たちも「本当に誰か受け取ってくれるのか?」と半信半疑でした。参考になる事例などもほとんどありません。ただ、新たな事業を生み出そうとしているわけですから、むしろそれは当たり前。もし先行事例が多くあったなら、それはすでに誰かが動いている証拠で、市場優位性は得づらいということになります。だからこそ、この取組みでは我々がまず飛び込み挑戦することが重要だと考え、第一歩を踏み出しました。地方銀行は慎重なイメージを持たれがちですが、今回はむしろ行内でも挑戦を後押しされていると感じました。
工夫が手繰り寄せた、十分すぎる手応え。期待は確信に。 ー改めて、ちばアクアラインマラソン2024での取組みについて教えてください。
北澤:
2024年11月10日に開催された「ちばアクアラインマラソン2024」で、SUSHI TOP MARKETING株式会社と共にNFTのデジタル開催記念証を配布しました。当行がゴールドスポンサーとして参画したこの大会は、海の上を駆け抜ける絶景のコースで知られ、多くの市民ランナーに親しまれています。今回は、完走後に記録が自動で刻まれデジタル完走証明書になる「ランナー用NFT」、家族や友人も取得可能な「応援者用NFT」、アンケートに協力するとドリンク引換券になる「アンケート回答証明書」の3種を用意しました。ランナーの数が約17,000人で、当初はどれだけの人が興味を持ってくれるか想像もつかなかったのですが、大会運営サイドの方々の協力もあり、総発行数は1万件以上に達しました。
ー高齢の参加者もいる中、そんなに多くの方が興味を持ってくれたのですね。
北澤:
工夫したポイントは、できるだけ操作をシンプルにして参加者の負担を減らすことでした。通常、NFTを受け取るには専用のデジタルウォレットを準備したり、そのためのアカウント登録が必要です。しかし、今回はNFT取得ページのボタンを押すだけで自動的にウォレット(ブラウザウォレット)が生成され、すぐにNFTを取得できる仕組みを採用しました。「よくわからないけれど面白そうだから試してみたら、実はそれがNFTだった」。そんなワクワクするような体験を届けたかったんです。実際、アンケートではNFTを初めて知った人が8割以上を占めていましたが、多くの方に受け取ってもらえたことで、「気軽に楽しく体験してもらう」という狙いが届いたと感じています。
県内イベントでの配布を検討した際、真っ先に頭に浮かんだのが千葉を代表するマラソン大会の1つである「ちばアクアラインマラソン」でした。
参加したランナーたちからは、「2年に1度の大会に参加した記録として、記念に残せてよかった」「今後コレクションしていきたい」といった声が寄せられました。
協賛から共創へ。スポーツイベントで検証するNFTの可能性。 ー続いての実証実験の場は、2025年2月9日に開催された「ちばぎんカップ」でした。こちらはどのような狙いがあったのですか?
北澤:
このカップ戦は、千葉県をホームとする2つのJリーグクラブ、ジェフユナイテッド市原・千葉と柏レイソルが毎年シーズン開幕前に対戦する、恒例のプレシーズンマッチです。新シーズンの幕開けを告げる名物イベントで、当行が冠スポンサーを務めています。ここで確かめたかったのは、「ファンコミュニティとNFT施策の相性の良さ」。応援の熱量を可視化することで、コミュニティがどう育ち、どのように広がっていくのかを探りたいと考えました。両チームのサポーターがオンラインで手軽にNFTの応援証を取得できるようにして、より多くの応援証を集めたチームを「SUPPORTER'S ちばぎんカップ」の勝者とするルールを設定し、取得数がリアルタイムで表示されるメーター付きの特設ページも用意しました。今回は、Xを中心にサポーター同士が応援合戦を繰り広げてくれて、最終的に応援証の取得数は約5,000件に上りました。その中には現地会場での応援が叶わなかったサポーターが「応援の気持ちだけでも届けたい」といって取得してくれたケースもあり、今後の展開や広がりにも大きな可能性を感じる結果となりました。
NFT応援証の取得数は約5,000件。ファンの熱量が可視化され、今後の施策にもつながる手応えある結果に。
ー2025年4月27日に開催されたB.LEAGUEの公式戦でもNFTを配布されていますね。
北澤:
今度は、NFTの取得を「当日、来場者限定」にしたら、果たしてどのくらいの人が取得してくれるのかを見てみたいと考えました。無料でいつでも誰でも取得できるものであれば、なんとなく、興味本位で取得される人も多いと感じていました。そこで、そうではなく、本当に目的を持って取得してくれる人のボリュームを知りたいと思ったんです。「千葉ジェッツ応援参戦スマホガチャ」と題したこの企画では、事前プロモーションはほとんど行わず、当日の朝の千葉ジェッツ公式Xからの投稿や、会場配布のパンフレットとスタッフが持つポスター、会場内の大型ビジョンなどで告知をしました。当日、来場者がスマホからアクセスすると、千葉ジェッツの公式マスコットキャラクター「ジャンボくん」の3Dモデルや千葉ジェッツロゴのデジタルアクリルスタンド、会場ですぐに使えるドリンク引換券などをランダムで受け取れる仕組みにしました。
北澤:
来場者の約3分の1に上るファンの方々がNFTを取得してくれました。これだけだとドリンク引換券が目当てだろうと思う人も多いと思うのですが…。かくいう私もそう思っていたのですが、NFTの取得理由についてアンケートを実施したところ、「千葉ジェッツが好きだから」という理由が一番多く、改めてチームとしてのブランドの価値やファンの熱量の大きさを感じました。それからもう一つ、予想外だったのがアンケートの回答率の高さです。これまで当行が非顧客と接点を持つ際は、決まって商品やサービスなど、何かしら銀行によるプロモーションがセットで付いていました。しかし今回の取組みでは、当行のロゴの掲出こそあったものの、過度なプロモーションは控えました。だからこそ、参加者も構えることなく自然に接点が生まれたのではないか。そんな気づきも、この実証から得た収穫の一つでした。
3人に1人がNFTをゲット。やはりジャンボくんの人気は根強いものがありました。
NFTは手段であり、地域と人をつなぐ新たな接点に。 ーNFTに関する取組みは、スポーツイベントだけでなく、ちばぎんグループとの共同プロジェクトにも広がりを見せていますね。
北澤:
例えば、地域商社のちばぎん商店とは、「どこでも千葉都市モノレールAR」という企画でタッグを組みました。これは、ちばぎん商店が運営するクラウドファンディング「C-VALUE」において、千葉都市モノレールのプラレールを先行予約販売した際、支援者特典としてAR体験ができるNFTを配布するというものでした。スマートフォンのブラウザから手軽にアクセスでき、好きな場所に千葉都市モノレールを出現させることができるようにしました。販売数の上限があって配布数は限定的でしたが、モノレールのAR映像のクオリティが高く、鉄道ファンを中心に高い評価をいただきました。デジタルアートをNFTとして譲渡したり、売買により価値や利益を追求したりする動きは一時の盛り上がりから落ち着きを見せていますが、「体験を共有する」ためのツールとしては、まだ多くの可能性を秘めていると感じています。
今回、プラレールとして商品化されたのは、千葉都市モノレールの「アーバンフライヤー0形」。未来的なフォルムが人気の車両です。
(c) TOMY 「プラレール」は株式会社タカラトミーの登録商標です。
ー試してみましたが、部屋の中をモノレールが走る様子にテンションが上がりました。こうした展開もまだまだ続きそうですね。最初に話を聞いたときは正直、「NFTってちょっとブームが落ち着いたのでは?」と思っていたのですが、全然そうではなかったことがわかってよかったです。改めて、今回の一連の取り組みを通じて得られたものについて教えてください。
北澤:
億単位の価格で取り引きされるデジタルアートが話題になり、NFTの「モノとしての価値」へ人々の関心が向いていたので、我々が目指しているのは少し別の観点だということが伝わってよかったです。ただいずれにしても、私たちは今後検討すべきことや注意すべきこと、企画の種のようなものを今回の実証実験でしっかり抑えられたと感じています。
北澤:
もともと、ファンコミュニティやスポーツチームを取り巻く人々の熱量には、とても大きな力があると感じていました。そうした熱意を、地域を盛り上げるイベントや関係企業の取組みにも波及させていくうえで、NFTという技術が一つのカギになるのではないかと考えています。NFTを活用することで、ファンの思いを可視化し、熱量をより強く、より広く届けることができる。そのツールとしての可能性に注目しています。そして千葉銀行としては、この新たなツールを地域に実装していく役割を担い、県内のさまざまな企業や団体とともに活用の幅を広げていきたいと考えています。地域に寄り添う金融機関として、これからも地域の盛り上がりを支える先頭に立ち、地方創生を後押ししていくーそんな未来を実現できたらと願っています。
デジタルは、「冷たく、無機質なもの」という印象を持たれがちですが、千葉銀行がNFTで目指しているのは、むしろ逆。人々を応援する気持ち、頑張り抜いた達成感、地元のスポーツチームへの愛着。そうした「感情」を見える形にして残す手段がNFTであり、それはエモーショナルデータの記録と言えるかもしれません。
所属、役職およびインタビュー内容は取材当時のものです。