千葉銀行、ちばぎん商店、小湊鐵道、いすみ鉄道、そして地域の事業者たちが手を取り合い、房総の魅力を掘り起こす「房総横断鉄道たすきプロジェクト」。前編では、その立ち上げの背景や、プロジェクトに関わる人々の素顔に迫りました。後編となる今回は、これまでに実施されたクラウドファンディングの中から、メンバーたちの心に残っているプロジェクトを取り上げてご紹介します。即完売となったパンの旅ツアーをはじめ、数々のユニークで魅力的な挑戦が生まれた現場には、地域と真剣に向き合う人々の姿がありました。
小川利幸 株式会社千葉銀行 理事 地方創生部長
1993年に千葉銀行に入行。営業店、企業サポート部などを経て、2021年4月より地方創生部担当部長に就任。2022年4月より県庁支店長、2024年4月より現職。
野中 脩平 ちばぎん商店株式会社 地域商社事業部
2024年に千葉銀行へ入行。2017年に新卒で民放キー局に入社し、人材採用や通販事業、新規事業などを担当。その後コンサルティングファームを経て、2024年より現職。クラウドファンディングサイト「C-VALUEクラウドファンディング」の掲載支援を通じて、地域事業者の企画開発支援に邁進。
小高 俊介 株式会社千葉銀行 地方創生部
2012年に千葉銀行へ入行。営業店勤務を経て法人営業部新事業支援担当として、スタートアップ支援・産学連携施策を企画・運営し、2023年4月より現職。千葉県や自治体、観光関連事業者と協業し、地域計画の策定や観光コンテンツ開発など、地域ブランディングによる課題解決を推進し、「地方創生」の実現に奔走している。
クラウドファンディングから生まれた、気づきや意外性に満ちたプロジェクトたち。 ーさっそくですが、今回のクラウドファンディングの中で、特に皆さんの印象に残っているプロジェクトを教えてください。思わず引き込まれたものや、可能性を感じたものなど、印象的だったエピソードがあればぜひ伺いたいです。
野中:
最初に思い浮かんだのは「貸切バスとトロッコでめぐる! 房総横断パンの旅」ですね。ちばぎん商店では、事業者さまの「こんなことをやってみたい」という想いを丁寧に汲み取りながら、企画のコンセプト設計やビジュアルづくりまで一緒に考えていくスタイル。この企画でも、どんな切り口ならより多くの人に届くかを考えながら、キャッチコピーや写真の撮り方まで何度も打ち合わせを重ねました。当初は「小湊鐵道・いすみ鉄道沿線エリアの美味しいものを巡るツアー」という案もありましたが、「今のイベントのトレンドはワンテーマです」と私たちから提案し、思い切って「パン一本」に絞ることに。少し不安もありましたが、結果的に公開からわずか一週間で完売し、大きな手応えを感じました。ちばぎん商店は、ちばぎんグループのいわばアイデア集団のような存在でありたいと考えています。その役割がしっかり発揮された企画として印象に残っています。
「貸切バスとトロッコでめぐる! 房総横断パンの旅」は、沿線エリアの人気パン屋を巡る体験型企画。小湊鐵道の社員さんと地元の皆さんが「本当においしい」と思うパン屋を厳選してくれました。さらに普段はパンを提供していない地元の人気料理店も、この企画のために特別メニューを携えて参戦。パン好きにはたまらないツアーになりました。
―まさに狙いが形になった好事例ですね。反対に狙い通りではなかったけれど、結果としてうまく展開した事例などはありますか?
小川:
ushikuni cafe(ウシクニカフェ)さんの、「本格スペシャルティコーヒーで作ったカフェオレベース」などはそう言っていいかもしれません。上総牛久駅にある小さなコーヒースタンドを経営されている方なんですが、事業者さまのやる気がとてもすごくて。
野中:
そうですよね。私たちが積極的にアシストしたわけでもなく、周囲への地道な声掛けにより目標を達成されていました。
小川:
地元の仲間がクラウドファンディングを始めたからサポートしようという、いわば応援団がいらっしゃるんですよね。域外の人に知ってもらいたいというプロジェクトの目論見とは若干異なるのですが、地元の方々の熱量に圧倒され、この力は侮れないと気づかされました。
出品者の「ushikuni cafe」は、上総牛久駅に併設された一坪強のスペースにある小さなコーヒースタンド。商品の魅力や、それをうまく発信することと同じくらい、応援してくれるサポーターの存在が大きな意味を持つことに気づかせてくれました。
野中:
想定外だったものでいうと、「メンマを作って食べて竹林整備!! やますの"竹切物語”体験ツアー」もその一つだと思います。市原市では放置竹林が深刻な環境問題になっているのですが、竹を切って竹林整備をしながら、切った竹をメンマにするという企画でした。ユニークな取組みであるとは思ったものの、あまりにニッチでローカルな企画であるため、クラウドファンディングでの目標達成は至難の業だと感じていたんです。でも蓋を開けてみたら、早々に完売してしまって。地方銀行が手掛けるクラウドファンディングには、こんな風にローカルな社会課題や取組みにスポットライトを当て、共感者を募る力があるんだと、逆に気づかされました。
出品者の株式会社やますは、道の駅の運営などを行う地元企業。メンマ作りを楽しみながら、地域の社会課題にもアプローチできるユニークな体験イベントは、予想を上回る反響を呼びました。
小高:
私からも一つおすすめを紹介させてください。「SHINRA YORO VALLEY by福水」のプロジェクトです。館山市で複数の宿泊施設を運営する花しぶきグループが、初めて大多喜町に進出し、2025年3月21日に新規オープンしたラグジュアリーな温泉リゾートです。観光ビジネス担当として以前からご支援させていただいていましたが、今回、たすきプロジェクトにぴったりなタイミングで新規オープンされるとのことで、特別宿泊プランをご用意いただきました。大多喜町での初めてのチャレンジということで、たすきプロジェクトへの参加を通して地域との繋がりを大切にしていきたいという思いも実現できたと思います。実際、ウェルカムスイーツにはたすきプロジェクトで繋がりを持った地元事業者さまのお菓子が採用されています。
2025年3月21日にグランドOPENした「SHINRA YORO VALLEY」
ー今回のプロジェクトならではの工夫や支援策はありましたか?
野中:
結果的に良かったと感じているのは、第1弾で応援してくださったお客さまに、第2弾の情報をご案内できたことです。先ほどのushikuni cafeさんの話にも通じますが、それによって、たすきプロジェクト全体を応援してくれるサポーターのような存在が、徐々に広がっていった印象があります。また、第1弾でプロモーションがうまくいっていた事業者さんの手法を、私たちがハブとなって、他の参加者の皆さんにも横展開できたのも、このプロジェクトならではのサポートだったと思います。
地域のキーパーソンのおかげで、大盛況に終わったマルシェ 小川:
少し話が逸れますが、今回のプロジェクトを第1弾・第2弾に分けて公開した背景には、2024年10月に発生した、いすみ鉄道さんの脱線事故という想定外の出来事がありました。当初はすぐの復旧を見込んでいたものですから、本来は一度にまとめて実施する予定だったものを、リードタイムを確保する目的で2回に分けたんです。そして、第2弾のスタートに合わせて、小湊鐵道といすみ鉄道が接続する「上総中野駅」でオープニングセレモニーを行うという話になりました。そのときに、野中さんから「マルシェを開いてはどうか」という提案があったんですよね。
野中:
小湊鐵道沿線のグルメといすみ鉄道沿線のグルメが上総中野駅に集まれば、新たな交流が生まれて盛り上がるのでは?という単純な考えでしたが、実際の運営はそんなに簡単なものではなく、地域の方々に助けてもらいながら実現できました。
小川:
そうですね。特に、地元でマルシェを主催し、地域からの信頼も厚い株式会社kiccakeの吉野さんと出会えて、いろいろ連携できたのは大きかったです。
小高:
小川さんの「地元の協力が不可欠」という助言を受けて、いろいろ調べた結果、たどり着いたのが吉野さん。すぐに、(真下社長含む)私たち4人で話を伺いに行ったんですよね。
小川:
吉野さんのおかげで、地元の方々の協力を得ることができ、マルシェは大盛況でした。彼女がいなければ、テントもイスもトイレも駐車場も、何ひとつ整わなかったかもしれません。まさにキーパーソンでした。
2025年4月26日、上総中野駅で開催されたマルシェイベント「結び目マチルシェ」。地方創生を進める上で何を大切にすべきかを見つめ直す、メンバーたちにとって貴重な機会となりました。
野中:
当時の私は「キッチンカーやパフォーマーを手配して派手に演出すれば、自然と注目が集まるだろう」くらいの感覚でした。でも、小川さんが現地に何度も足を運び、丁寧に関係者と対話を重ねる姿を見て、自分の見方がいかに表面的だったかに気づかされましたね。
小川:
事故の復旧がすぐには難しいとわかったとき、「このプロジェクトの継続は厳しいのではないか」という声も聞こえてきました。けれど事業者さまや協賛企業の方たちに会いに行くと、「地域活性化に繋がる企画だから、ぜひ続けてほしい」と、前向きな言葉をたくさんいただいて。それを聞いて、むしろちゃんと最後までやり切らなきゃという覚悟が決まりました。そういう気持ちがあったから、あのときは特に、地域や人との繋がりを強く意識していたのかもしれないですね。
ー今回のプロジェクトでは、そのあたりの機微もとても大事だったということですね。小川さんのそのような考えや姿勢は、一体、どこから生まれたものなのでしょうか?
小川:
そのときどきで、自分なりに一番いいと思う行動をとっているだけですよ。ただ、大切なお願いをするときは、相手に任せきりにせず、自分の言葉でしっかりと理由まで説明する。そういうところは大事にしています。
野中:
自分なんかが言うのはおこがましいですが、最近の「地方創生」って、少し軽く扱われてしまうことがあると思うんです。言葉ばかりが先行して実態が伴っていないというか。でも、このプロジェクトはそこが違ったように思います。リーダーの小川さんが誰よりも動いていて、その背中を見ていると、私たちも「ちゃんとやらなくちゃ」と自然と思えてくる。そういう空気が最初からチームの中にありました。誰かの想いや背景にちゃんと目を向けて、必要な説明は丁寧に重ねる。そのうえで「一緒にやっていきましょう」と手を取り合う流れが、ごく自然に育まれていった気がします。気づけば、関係者の皆さんとの間にも、いい信頼関係が築けていました。
小川:
結局、人が大事なんですよね。私から見ると、もちろん野中さんもその一人です。この人がいなかったら絶対うまくいかなかったということばかりで、自分的には奇跡の連続だと思っています。「協業」や「共創」とよく言われますが、それらを動かすのも人ですし、人がいなければ何も始まりません。
野中:
今回、ちばぎん商店としてプロジェクトに関わる中で実感したのは、クラウドファンディングという機能だけでは、地域に根ざした支援はうまくできないということです。いくら仕組みとしてのプラットフォームが整っていても、それを活かすには、地域の声を聞き、繋いでくれる存在が必要です。その役割を担ってくださっているのが、地方創生部や各支店の皆さん。機能だけを切り出せば、自分たちは大手のプラットフォームに見劣りするかもしれません。でも、ちばぎんグループとして地域と向き合い、想いを拾い上げる力では簡単には負けない。それが自分たちの価値になっていると考えています。
小高:
それについては逆の流れもできつつありますね。当行とこれまでお取引のなかった事業者さまからも、ちばぎん商店に直接問い合わせいただけるようになっており、そうしたご縁から当行との新たな取引に繋がることも少しずつ出てきています。こういうのも、「たすきプロジェクト」が生んだ広がりの一つと言えそうです。
ーグループ内の部門間連携でいうと、沿線の加盟店でキャッシュレス決済をすると通常の10倍のポイントがもらえる「房総横断鉄道 たすき TSUBASAポイント10倍キャンペーン」や、デジタル戦略部と一緒に実施した「たすきNFT」の配布などもその一例ですね。
小川:
そうした展開が活発になった背景には、千葉銀行の経営陣、とくに頭取による地方創生への強い関心があります。私たち地方創生部とも月に一度のペースで意見交換の場があり、そこから「こんな取組みを一緒にやってみては」と、さまざまな部署に働きかけが行われるんです。今回のたすきプロジェクトでは、そうした他部署連携がより活発になり、地方創生を多角的かつ総合的に進めていく流れがしっかり形になったと感じています。トップが「地方創生は一部門の取組みではなく、すべての部署がそれぞれの機能を活かしながら社会課題の解決に関わるべきだ」という価値観を持っているからこそ、こうした厚みのある企画が実現できたのだと思います。
ーでは取組みを進める中で、新たに見えてきた課題はありましたか?
小川:
そうですね。あまり答えになっていないかもしれないですが、地方創生というのは本当に奥が深く、簡単に解決できるものではありません。たすきプロジェクトも、あくまでそのきっかけに過ぎず、これだけで沿線地域が劇的に変わるわけではないんです。だからこそ、一過性で終わらせず、継続していくことが何より大切。私たち自身も、自己満足で終わらないようにと、改めて気を引き締めているところです。
ー今後の展開については、どのようなイメージをお持ちですか?
小川:
実は最近、少し嬉しい動きがありました。高滝で農園やキャンプ場を営んでいる方がいて、その方は、五井駅で朝市を開いているんですが、「せっかく、たすきで海と山が繋がっているんだから、大原の海産物を朝市に並べてみられないかな」と相談がありました。高滝は山の中ですから、これまで朝市に海のものを出すということはなかったそうなんです。それで、大原で土産物屋をされていて、地方創生にも強い思いを持っている方を紹介したところ、実際に朝市で大原の干物を並べるところまで実現しました。今度は逆に、大原の朝市にも高滝のものを出していこうかという話まで出てきていて、人と人、地域と地域を結ぶたすきが、少しずつ動き出しているのを感じています。
野中:
たすきプロジェクトや、ちばぎん商店の取組みにおいて、一つ感じているのは「広がり方」への課題です。今回、プロジェクトを最も多く取り上げてくださったのは、千葉県内のメディア。そして応援してくださった支援者の多くも、やはり県内のお客さまでした。そう考えると、今はフェーズ1。まずは地元の千葉県内でしっかりとした土台を築いている段階です。もちろん、それは大切なことで、私たちも大事にして取り組んでいます。でも、なぜ私たちが新しい商品やサービスの創出をサポートしているのかというと、次のフェーズ、つまり県外や国外へと広げていくための準備でもあるんです。ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんが、魅力ある商品を発掘し、磨き上げていくことが、我々の役割だと思っています。将来的には、たすきプロジェクトを通じて、たとえば東京や神奈川、埼玉、さらに遠方の方々にも「千葉っておもしろいね」「行ってみたいね」「買ってみたいね」と思ってもらえるような状態をつくれるかどうか。そこが、今後の大きなチャレンジになると感じています。
小高:
今後は、今回、参加できなかった事業者さまからのご相談にもしっかり寄り添っていきたいと考えています。千葉県にはまだまだ意欲ある事業者さまがたくさんいらっしゃいます。ちばぎんグループのさまざまな機能を活かしながら、地域の魅力をさらに磨き、盛り上げていくことが、私たちの役割です。今回の取組みを一度きりで終わらせるのではなく、「未来へのたすき」として、より広く展開していけたらと思っています。
今回の「たすきプロジェクト」は、そのことを改めて教えてくれました。
まだまだ道半ば。けれどその歩みには、地域を想い、共に汗をかく人たちの力が宿っています。
異なる立場や専門性を持つ人たちが手を取り合い、繋がり合うことで、見えてくる風景がある。今回の「たすきプロジェクト」は、そのことを改めて教えてくれました。まだまだ道半ば。けれどその歩みには、地域を想い、共に汗をかく人たちの力が宿っています。
※所属、役職およびインタビュー内容は取材当時のものです。