小湊鐵道・いすみ鉄道沿線の事業者が、ちばぎんグループの地域商社であるちばぎん商店のクラウドファンディング「C-VALUE」を通じて千葉の魅力を発信する「房総横断鉄道たすきプロジェクト」。全21件に及ぶ個性あふれる企画の数々は、どのようなきっかけで立ち上がり、どのように目標を達成できたのでしょうか。「たすきSnap」では、そんな企画の裏側に迫り、参加事業者一人ひとりのリアルな声をお届けします。
第2回目は、のどかな田園風景の広がる南市原から養老渓谷、そして小湊鐵道といすみ鉄道が交わる上総中野駅にかけての、小湊鐵道沿線エリアで立ち上がった4つのプロジェクト。「上総中野駅かざぐるまオブジェ設置プロジェクト」、「SHINRA YORO VALLEY特別宿泊」、「時代をさかのぼる逆流ツアー」、「本格スペシャルティコーヒーで作るカフェオレベース」に迫ります。
人口減少に「待った!」をかける。地元に恩返しをするプロジェクトとは?
房総半島を“たすきがけ”のように走るローカル線・小湊鐵道といすみ鉄道。その沿線は奥房総とも呼ばれ、田んぼ、菜の花、桜が彩る「日本の原風景」が残る地域ですが、人口減少で徐々に賑わいを失いつつあるといいます。そんな状況を見過ごせないと動き出したのは、学生時代をこの地で過ごし、今改めてその魅力の再発見に挑戦する事業者たち。立場は違っても、地元に恩返しをしたい気持ちは同じでした。
~たすきSnap 05 株式会社kiccake 三上 絢香さん~ かざぐるまオブジェで上総中野駅を出会いの聖地へ
株式会社kiccake(キッカケ)代表取締役・三上 絢香(みかみ あやか)さん。地元でカフェを営むお母さまの『人が減って寂しくなってきちゃった』という言葉で、故郷・大多喜町へUターンを決意。イベント事業やコンサル事業を展開しています。
小湊鐵道といすみ鉄道が交差するときに生まれる風が、かざぐるまに込めた縁結びの願いを運んでいく──。「かざぐるまオブジェ設置プロジェクト」は、2つの鉄道会社が接続する上総中野駅を、人と人の縁も交わる出会いの場にしたいという思いから立ち上がった企画です。発案者は株式会社kiccakeの代表取締役・三上 絢香さん。わずか1年で1,000人規模へと成長した“大多喜マチルシェ”など、数々のイベントを手掛けています。
三上さん:
きっかけは、千葉銀行さんから「上総中野駅前で、たすきプロジェクトのイベントを開きたい」と相談を受けたことでした。そこから“結び目マチルシェ”をプロデュースすることになり、以前から駅舎をきれいにするボランティア「出逢いの会」に参加し、多くの人が駅に訪れることを願っていた私は、駅前でイベントができることが本当に嬉しかったんです。
その気持ちを汲んでくださったのか、たすきプロジェクト実行委員会の皆さんから「クラファンで三上さんのやりたいことをやろう」と言っていただき、私は駅に「かざぐるまオブジェ」を設置することを提案しました。2つの電車が出会う駅だからこそ、縁結びの願いを込めたかざぐるまがふさわしい。電車の風でくるくると回り、願いが運ばれてゆく光景が頭に浮かび、絶対にいい場所になると思ったんです。小湊鐵道といすみ鉄道の両社長も「これはいい、やろう!」と後押ししてくださり、クラファンがスタートしました。
オブジェは、上総中野駅の駅舎ホーム側に設定される予定です。
三上さん::
終わってみれば、“結び目マチルシェ”当日は上総中野駅が人で溢れ、クラファンも目標の103%の支援金が集まりました。本当にたくさんの方のサポートがあったからこそできたことです。ちばぎん商店の野中さんは自分ごとのように準備を手伝ってくださり、千葉銀行大多喜支店長の阿部さんも町の事業者一軒一軒に協力を呼びかけてくださいました。さらに、受付終了後に支援金を直接届けてくださったおばあちゃんまでいて…。これだけの人が「大多喜町を盛り上げたい」と同じ方向を向いていることが嬉しくてたまりませんでした。
上総中野駅でのプロジェクトを通じて、さまざまな人とつながるご縁を実感しています。実は私自身も、Uターン後に主人と出会い結婚したんです(笑)。縁結びのご利益が溢れるこの場所で、「かざぐるまオブジェ」が若者やカップルをはじめ、たくさんの人たちを幸せにする“きっかけ”になることを願っています。
~たすきSnap 06 SHINRA YORO VALLEY 野口 智子さん~ 後継ぎ問題から一転、300%の支援金を集めた養老渓谷の温泉宿。
SHINRA YORO VALLEY女将・野口智子(のぐち ともこ)さん。五井で生まれ育ち、高校生のときに前身となる「渓流の宿 福水」をご両親が始めるタイミングで養老渓谷に移住しました。
養老渓谷の景勝地・懸崖境(けんがいきょう)を望む「SHINRA YORO VALLEY」は、かつてその地にあった「渓流の宿 福水」を、館山を拠点とするホテルチェーン・HANASHIBUKI RESORTが事業承継する形で誕生しました。2025年3月のオープンを記念した、たすきプロジェクト限定の宿泊プランは目標の3倍の応募を記録。女将の野口 智子さんは「開業からずっと走り続けている感じ」の忙しい日々だと言います。
野口さん:
私の父がこの懸崖境(けんがいきょう)の風景を大変気に入り、家族経営で温泉宿を続けてきました。しかし近年は後継ぎ問題に直面し、宿を閉めることも考えました。けれど、それでは地元がサビれていってしまう。「できれば地元を大事にしてくれる方に引き継ぎたい」との思いから、昔からの知り合いで同じ南房総の地で宿泊施設の経営等をしている“HANASHIBUKI RESORT”の小金社長に承継をお願いし、私が女将を務めることになりました。
オープン前は、正直とても不安でした。養老渓谷には全客室露天風呂付きという高価格帯の宿の前例がなく、「お客さまは本当に来てくださるのか」と心配していました。しかし、クラウドファンディングの反応を見て、ラグジュアリーな宿を求める声があり、さらに「都心から近い自然の中でゆっくり癒されたい」というニーズもあることに気づかされました。
野口さん::
たすきプロジェクトの広報効果もあり、オープン後はほとんど満室が続いています。多い日には全20組のうち5組ものお客さまが電車でお越しになり、ちばぎん商店さんの取組みのおかげで、「ローカル線に揺られ、田園風景を楽しみながら宿を目指す」という旅の楽しみ方も広がっているのではと感じています。
私は五井駅の近くで小湊鐵道を眺めながら育ち、いすみ鉄道に乗って大多喜高校に通っていました。思い入れのある両鉄道のプロジェクトに関われることはとても嬉しく、養老渓谷を取り上げてくれたちばぎん商店さんには親近感が湧いています。今回のプロジェクトを弾みに、第2弾、第3弾と、さまざまな地域が活性化する企画が生まれると嬉しいです。
~たすきSnap 07 合同会社開宅舎 髙橋 洋介さん~ のろのろ、ガタガタ、ぐらぐら進む。小湊鐵道「逆流ツアー」の反響とは。
合同会社開宅舎代表兼デザイナー・髙橋 洋介(たかはし ようすけ)さん。市原市1人目の「地域おこし協力隊」。石神の菜の花畑を守るプロジェクトや、後述の上総牛久駅にカフェを作るプロジェクトなど多くの地域事業に携わります。
南市原エリアで空き家と移住希望者のマッチング事業を行う「開宅舎」代表・髙橋 洋介さん。今回のたすきプロジェクトに参加した多くの事業者を実行委員会に紹介した、ハブのような存在です。そんな髙橋さん自身も思いがけない流れから立ち上げたのが、小湊鐵道の五井駅から養老渓谷駅まで、都会からどんどん田舎の風景へと時代を遡るようにして進む「逆流ツアー」。実際に髙橋さんが空き家を紹介した個性豊かな移住者を、小湊鐵道に乗って訪ねる旅でした。
髙橋さん:
たすきプロジェクトの話が持ち上がったとき、千葉銀行地方創生部の小川部長と小湊鐵道の石川社長が「いい事業者さんいない?」と訪ねて来られ、僕が知っている南市原の事業者さんを車でご案内したんですよ。そしたら社長に「このツアー面白い!」って言われて、乗せられるままに「じゃあやります」と答えていました(笑)。
企画を練るうち、小湊鐵道の面白さはその“遅さ”だと気づきました。走るスピードはゆっくりで、ガタガタ揺れる。本数も少なくて、降りたら2時間次の電車が来ない。でもその制限が逆に地域らしいゆっくり流れる時間を生み出している。空いた2時間は回れるところを回ればいい。速さではなく遅さを楽しむ。“逆流”にはそんな意味も込めました。
ツアーの移動はすべて小湊鐵道。五井駅からのスタートです。
多くの地元の方がツアーに協力してくれました。軽食を配るのはushikuni cafeの曽根さん。
髙橋さん:
ちばぎん商店の野中さんには計画段階からすごく助けられました。当初はバスツアーで考えていましたが、法律上の壁にぶつかってしまい…。そのとき「できる範囲でやりましょう」と小湊鐵道での移動を提案してくれました。クラファン向きではないふんわりした企画だった分、目標金額を達成したときは本当にほっとしました(笑)。
参加者のほとんどは、移住を前提に来たわけではなく、「ツアー内容が面白そう」と参加した方ばかりでした。でも終わった後に「移住を考えたい」と答えてくれた方が2、3組いたんです。最初から移住希望者だけを狙うのではなく、まずは魅力的な体験を提供する。そうすれば自然と気持ちは傾く。このアプローチの良さを感じたので、今後も続けていきたいです。
たすきプロジェクトのようなイベントを千葉銀行さんが主導してくれると、僕たちは乗っかりやすいんです。実行する余裕がないと計画だけして流れてしまうことがほとんどですからね。開宅舎としても、空き家を紹介した事業者さんに「試作品を作ってクラファンで売ってみませんか?」と提案もしやすい。そうやってローカル線沿線のカルチャーを育んでいきたいです。
~たすきSnap 08 ushikuni cafe 曽根 晴さん~ コーヒー豆のスペシャリストが贈る、誰もが手軽なカフェオレ体験。
ushikuni cafeオーナー・曽根 晴(そね はるる)さん。CQI認定Qアラビカグレーダー。2020年、当時の市原市「地域おこし協力隊」の髙橋さんとともに前身となるカフェ「#牛久にカフェを作りたいんだ」を立ち上げました。
上総牛久駅の古い物置がコーヒースタンドに生まれ変わった「ushikuni cafe」。Qアラビカグレーダー(国際コーヒー鑑定士)の資格も持つ曽根 晴さんが2024年6月よりオーナーを務めています。忙しい日々にも気軽に美味しいコーヒーを楽しめるようにとの思いから、最高級の豆を使用した「カフェオレベース」を開発。ギフトにもぴったりな商品として、たすきプロジェクトに出品しました。
曽根さん:
高校を卒業した当時は「こんな何もない牛久なんて早く出ていってやる」とすぐに上京しました(笑)。けれど、海外経験を経てUターンしてみると、里山の風景や人の温かさがあって「意外といいところかもしれない」と気づきました。同時に、高校時代と比べて小湊鐵道の利用者もダイヤも減っている現状にも直面し、少しでも力になりたいという思いも持つようになりました。
そんなときにコーヒースタンドのスタッフが足りないという話を聞き、せっかく取ったグレーダー資格も宝の持ち腐れでしたし、何より地域の役に立てるならと、オーナーを引き継ぐことに決めました。
当初、私はたすきプロジェクトとは無関係だと思っていたんです。でも、ちょうど父の日・母の日向けのギフト商品としてカフェオレベースを企画していて、「そういえば、たすきプロジェクトがあったな」と思い出してすぐに問い合わせて、ギリギリで参加できることに。
カフェオレベースには加糖(左)と無糖(右)の2種類を用意。店舗でもオンラインでも購入可能です。
曽根さん:
ちばぎん商店のC-VALUEは、うちのような地域密着のお店には本当にありがたいプラットフォームです。県内の方が多く見てくれるので、地域の共感が得やすい。さらに、SNS広告やメルマガ、銀行の各支店でのチラシ配布、ラジオ出演など露出面でのサポートが手厚く、自分では届けきれない層にしっかり届けられている実感がありました。支援者の方が実際にお店に来て「美味しかった」と言ってくれたり、SNSのフォロワーさんも増えたり、たすきプロジェクトに参加した意義もしっかり感じています。
私は小湊鐵道が大好きで、今では上総牛久駅には「何もないからこその良さがある」と思っています。これからもいろいろな商品を作り続けますが、最終的にはこの駅に来て、ここの空気を味わってほしい。ここで一杯のコーヒーを飲み、肩の力を抜いて「また頑張ろう」と思える人が一人でも増えるよう、この店を続けていきたいです。