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世界金融危機後、いち早く景気回復を遂げた中国は米国に次ぐ経済大国に成長し、世界経済の新たな牽引役となった。しかし、2014年に入ると、製造業における過剰在庫の調整や輸出の鈍化、不動産市場の低迷などにより、その成長に陰りが見え始めた。2015年8月、輸出増加による景気浮揚を狙い、中国人民銀行が人民元の実質的な切り下げに踏み切ったことで、景気減速懸念(いわゆるチャイナショック)が世界の株式市場に伝播し、株安の連鎖をもたらした。
さらに、2015年12月には米国連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Board)がゼロ金利政策を解除し、金融政策を転換したことで資金をリスク資産から安全資産に移す「リスクオフ」の動きが世界中に広がった。
その後、米国は新大統領に就任した共和党のドナルド・トランプによる大型減税政策などで経済が持ち直し、中国をはじめとする新興国の景況感の改善と相まって2017年には世界経済同時回復が実現した。これより世界は「適温経済」※1と呼ばれるインフレなき緩やかな景気拡大に突入していった。
国内では、政権復帰を果たした自民党の第2次安倍内閣が2012年12月に「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」※2「民間投資を喚起する成長戦略」※3の3本の矢からなる経済政策(いわゆるアベノミクス)を掲げ、デフレ脱却と財政健全化に乗り出していた。
新政権の方針に呼応するかたちで、日本銀行も2013年1月に物価安定目標(インフレ・ターゲット)を消費者物価の前年比上昇率2%に定めた。政府との共同声明では、政府と日本銀行が政策連携を強化し、一体となって取り組んでいくことを強調した。同年4月に黒田新総裁が就任後初の金融政策決定会合で発表した「2%、2年、2倍」(2%の物価安定目標の実現に向けて、2年程度の達成期限を念頭に置き、マネタリーベースを2倍にする)の量的緩和と、買入対象資産の多様化を組み合わせた「量的・質的金融緩和」は、異次元金融緩和や黒田バズーカとも呼ばれた。
こうした大胆な経済対策は市場にも好感され、米国経済の持ち直しや欧州債務危機の小康状態とも相まって中期的な円安・株高基調をもたらした。2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた際は、駆け込み需要の反動から一時、生産や個人消費の落ち込みがみられたものの、日本銀行が追加緩和を実施したこともあり緩やかな景気回復が持続した。
2013年4月の「量的・質的金融緩和」の開始から2年が経過しても、消費者物価は日本銀行が掲げた物価安定目標の2%に届かない状況が続いていた。
2016年に入るとチャイナショックの影響により円高が進み、日経平均株価も急落するなど市場は混乱した。そこで、日本銀行は2月に、日銀当座預金の一部に▲0.1%の金利を適用する、史上初の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入に踏み切った。
これは、マイナス金利の適用を受ける超過準備※4相当を市中の投融資に回し、経済活性化とデフレ脱却を狙った政策であったが、導入後日本銀行が想定する以上に長期金利が低下したことで金融機関の利ざやは縮小し、収益基盤を蝕んでいった。
長引く金融緩和で金融機関の収益力が低下することは政策の副作用として指摘され、とりわけ地方銀行の半数以上が本業赤字※5に陥るなど地域金融の弱体化が目立った。運用難から地方銀行の投資信託保有額が拡大し、借入依存度の高い企業やミドルリスク企業に対する融資額が増加するなど、過度なリスクテイクも課題として浮上した。
日本銀行は、同年9月にこうした「量的・質的金融緩和」導入以降の政策効果について総括的な検証を行ったうえで、金融市場調節により長短金利を操作するイールドカーブ・コントロールの導入を決定するなど、その後も2%の物価安定目標実現に向けた追加緩和策を実施していった。
人口減少や都市部への人口集中などを背景に地域経済が縮小するなか、地方銀行では将来に向けたビジネスモデルの確立が喫緊の経営課題となっていた。
マイナス金利の導入で収益力の低下に拍車がかかったこともあり、この時期、地方銀行同士の合併や経営統合が相次いで発表された。また、インターネット金融大手のSBIホールディングスが地銀連合構想を掲げ、資本業務提携などにより地方銀行との関係強化を図る動きもみられた。
なお、公正取引委員会は同一地域の地方銀行が経営統合することによる地域内の融資シェアの高まりを問題視し、2017年12月に「企業結合審査の考え方」※6を公表した。
その後、地方銀行同士の統合・合併を10年間に限り独占禁止法の適用除外とする特例法の施行(2020年11月)や、経営統合などの条件を満たす場合に日銀当座預金の金利を上乗せする特別当座預金制度の導入(2021年3月)、合併や経営統合する際の必要経費の一部を補助する政府補助金制度の創設(2021年7月)など、地銀再編を後押しする動きが目立っていった。
東日本大震災の影響で一時減少していた千葉県の人口は2014年に再び増加に転じた。また、2013年の県内観光客数は延べ1億6,593万人と過去最高を記録し、2014年の公示地価(全用途平均)も6年ぶりに上昇に転じるなど、震災後の景気回復に明るい材料がそろってきた。
さらに東京都が2020年の夏季オリンピック・パラリンピックの招致に成功し、千葉県でも8競技(オリンピック4競技、パラリンピック4競技)の開催が決定したことで、交通インフラや宿泊施設の整備、パラリンピック競技関連のイベント開催など、ハード、ソフト両面で準備が進められていった。
2017年7月には、千葉県商工会議所連合会など県内6経済団体がオリ・パラ応援組織「みんなで応援!千葉県経済団体協議会」を立ち上げ、行政と連携しながら、「情報発信」「機運醸成」「おもてなし」の三つの分野で活動を展開した。県産業界も1,200億円以上(ちばぎん総合研究所による試算)とされる県内経済への波及効果に期待を寄せたが、東京オリンピック・パラリンピックは新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年に開催が延期され、県内会場を含むほとんどの会場が無観客となるなど大会規模は大幅に縮小された。
そのほか、「千葉県地方創生総合戦略」※7に基づくインバウンド需要の取り込みや地方創生の取組みの進展などもあり、千葉県経済は緩やかな回復軌道をたどった。
なお、この時期はランドマークとなる大型のショッピングセンターやアウトレットモールが県内に次々と開業した。東京湾アクアラインの片道800円の割引継続や圏央道の延伸などにより、こうした商業施設には県外からも多くの買物客が訪れるようになっていった。
2016年11月には県都の表玄関とも言えるJR千葉駅の新駅舎が53年ぶりに開業し、エキナカと呼ばれる構内の商業スペースもオープンした。一方、県内の主要駅周辺では大手百貨店の撤退が相次ぎ、商業マーケットの変化とともに駅前や周辺部の空洞化が指摘されるようになった。
※1 適温経済
経済が過熱せず、冷めすぎてもいない適度な景気状態のこと。
※2 機動的な財政政策
東日本大震災からの復興や地域活性化、再生医療分野などに10兆円規模の大規模な予算編成を行う政策。
※3 民間投資を喚起する成長戦略
農業、医療など成長分野の規制緩和、法人実効税率の引下げ、自由貿易の推進、女性や外国人の活用など、投資を誘引する政策。
※4 超過準備
準備預金制度の対象となる金融機関が法定準備預金額を超えて日本銀行に預けている預金のこと。
※5 本業赤字
金融庁が定義する、本業利益(貸出残高×預貸金利回り差+役務取引等利益-営業経費)ベースの赤字を指す。
※6 企業結合審査の考え方
統合により、一定の取引において顧客が十分な選択肢を確保できなくなる状況にならないかを審査上の観点とする、顧客還元重視の考え方。
※7 千葉県地方創生総合戦略
「まち・ひと・しごと創生法」に基づき千葉県が策定した平成27年度~令和元年度までの5年間を計画期間とする地方版総合戦略。2020年11月には第2期千葉県地方創生総合戦略が策定された。